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Writer's picturefuzuki hoshino

20230409

最近なんだかずっとぼんやりかなしくて、これは自分の感情というより誰かのかなしさを私のからだが預かっているような感じがする。だから、どうしようもない、というか成すすべがないような気持ちになってうなだれている。


昨日は晴れていたから午前中に散歩に出た。

先週引っ越しをしたので、家から一番近い川が変わった。だけど、なんとなく前の家の方にある幅がひろくて、水がたくさん流れている方の川に行きたくて、そっちまで歩いた。

オンラインの打ち合わせ用になんでもいいや、と思って買った有線のイヤホンを耳に挿して、同居人から聴いてみて欲しいと言われたpodcastを流しながら歩いた。

安物のイヤホンは音がすかすかして、人の声をぼーっと聴くくらいならこれくらいがちょうどいいかも、と思った。試しに音楽を聴いてみたら低い音がうるさく響いてあたまが疲れた。前日に雨が降っていたからか水の量がいつもより多くて、川がごうごう鳴っている。


最近考えなきゃいけないこと、というか考えたいことがたくさんある気がしているけど、考えるための気力と体力がずっと持てなくて、胸のあたりに言葉になる前の思考とか感情みたいなものがたくさん溜まっていて気持ち悪い。

川の音を聞きながらどんどん歩いていたら、それらは無くなってしまうわけじゃないけど、一時的に誰かが預かってくれているように軽くなる気がして、何も考えずにたくさん歩いた。


帰りに、私の手違いで4月いっぱい借りた状態になっている前の家に立ち寄った。

空っぽの部屋のなかに、なぜか引っ越しで運ばなかった白いカーテンだけがあって、床にぐったりと横たわっている。人みたい、と思って、抱えてみると思っていたよりも重さがあった。これを持って家まで歩きたくなくて、また床にそっと置いた。

部屋の鍵をかける時に横たわっているカーテンと目が合う。次はきっと迎えにくる、と守れるかわからない約束をした。


あたらしい家のことを自分の家だと思うこともまだできないけど、空っぽになったこの部屋で過ごしていた記憶も少しずつ遠くなって、うまく思い出すことができない。


もう誰も住んでいない部屋にも陽は差していて、ここにだって夜が来るんだな、と思う。

置いてきたカーテンのことがやけに心に引っ掛かっている。





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